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コラム

【キミの女装の中心線#03】マイメロに近づくキミと、ピンクの森へ

#03

今日デートする女装男子は、サンリオのキャラクターの中でもマイメロ推しの人らしい。

ニンゲンは一度サンリオの沼に入ると、可愛さにずぶずぶとハマりながら悶えてアヒル口になる時がある。私もそのひとりで、ハンギョドンが大好き。最近はうなぎのぼりの人気で、半魚界も喜んでいるに違いない。先日、「なんでもかんでも『かわいい』って言うなよ」って高円寺の居酒屋のおじさんに怒られたけど仕方ないだろ、可愛いものへは特殊な褒め方いらないの。

気になっている相手とのトーク中、するっと同じLINEスタンプを使うと会話のテンポが揃ってなんとなく恋が成功した感じになる

私はこの女装男子とのデート企画『キミの女装の中心線』が始まって、週1ペースでデートしている。毎週気持ちを入れ替えて、先週会った女装男子との密な記憶を更新して、新たな気持ちでこの文章を書いているのだ。でもデートって回数重ねてお互い分かってくもんじゃん?そこを我々は一度で吸収しあおうって話だから、結構すごいことをしてるような気もする。

「はじめまして、お待たせしました。普段は会社員のマイメロです」
「マイメロちゃん、ですね。全身ピンク!可愛いっす。ピンクお好きなんですか」
「はい、マイメロにハマっちゃって」
「分かります。私、ハンギョドン好きです」
「ああ、あの魚人さん。最近キテますよね」

最近はコロナの影響で注文時に店員さんを呼ばずに、テーブルに置いてあるQRコードを読む込むスタイルが当たり前になった。目の前に店員さんはいるし口頭で伝えたくて少々面倒くさいけど、これはこれで違うコミュニケーションが産まれた。1人1人個別で読む込むことも出来るが、相手が自分の分までまとめて注文を取ってくれる時間に萌えることがある。メニューを相手に見せるために携帯を預ける、その瞬間が少し2人の距離を近づけている。この3年間、親密な人としか近づいていない。思いっきり握手をしたり、ハグをしたり、近づき方を忘れそうになることもある。

プリプリの笑顔

お揃いのカフェラテがやってきた。マイメロちゃんが思いの外、薄着なことが気になる。外気2度。この格好で寒波を耐え抜いているのか。

「ピンクって目に優しいですね」
「あはは、ピンクにも色々あるんですよね。僕は淡いピンク色が好きです」
「本当に可愛いです。桃色ってやつですね」
「はい。本当は髪の毛もピンクにしたいんです」
「あ、地毛なんですね。キューティクルも抜群にいいですね」
「本当ですか!毎晩トリートメントをしっかりしてた甲斐がありました。シャンプーより3倍早く消費しちゃうのが悩みです」

マイメロちゃんは巻いた髪に指をとおし、困り顔をしていた。

「女装しながら何か活動はしてますか?」
「毎週、Live配信をしたりしてます」
「毎週はすごいな。それはマイメロにちなんだ内容?」
「いや、ケンタッキー大食い企画とか」
「え。何も関係なくて最高ですね」
「そう〜でも6ピースしか食べれなかったんです。恥ずかしいっ」

6ピースでもすごいと思うけど、結構照れてたので言えない。

新米作家に優しいマイメロちゃん

「あと、これ!読みましたよ」
「え!さっきから私の本があるじゃんって気になって言えなかったです。買ってくださったんですね」
「はい、紀伊國屋書店で目立ってましたよ」
「ひ〜嬉しいです、ありがとうございます。私の本の表紙、ピンクなので条件反射でピンク見たらドキッとするんですよ。今日のマイメロちゃんも全身ピンクだしドキドキします。何かもう一杯飲みますか?」

店の中で一番大きいデザートを頼んだ。私って単純なやつ。大食いの気があるマイメロちゃんに栄養を与えたい。

思ってた2倍大きい

「う、大きい。」
「これ一口じゃいけないですね」
ひたすらに大きいので、しばらく無言でフルーツサンドウィッチを頬張っていく。無言に耐えられず、吹き出して静かに「すいません」を呟いてまた吹き出した。

「マイメロちゃん、何しても可愛いですね」
「そうかな」

お会計を済まして、エレベーターに乗った。ここも2人きりで、無言になるのがなんだか面白くてマイメロちゃんが持つグッズを指差して見せてもらった。お財布の中身丸見えの人、久しぶりに見た。

お財布もマイメロ

「マイメロちゃんって、どんな言葉が一番テンション上がりますか」
「うーん、清潔感があるとか。小綺麗だね、とか。」
「え!可愛いは?」
「うーん、そんなにテンション上がらないですね」

なんてことでしょう。出会ってから30回くらいは『可愛い』と言ってしまった。絶望の中エレベーターが下る重力を感じながら地上に着いた。重力も意識すると重いな。

新宿の道を歩きながら話を続けた。
「なんで清潔感があるって言葉がいいんですか」
「褒め言葉って、本人が信じてる言葉をつかってもらったら深く心に入るじゃないですか」

こんなにピンクで可愛い見た目なのに、マイメロちゃんが「清潔感の世界」に住んでいることに驚いてしまった。人の考えていることは分からないというのは本当である。おとぎの国は隅々までアルコール除菌されて塵1つないのかもしれない。

「そうだ、プリクラ撮りませんか」

マイメロちゃんと会って、久しぶりにゲームセンターに行きたくなった。
新宿のゲームセンターはいつ行っても人が溢れている。こんなに娯楽がある都会なのにみんなここに身体を動かしにきているのか。

プリクラがある階までエレベーターで行く。その手前でマイメロちゃんが振り返って言った。

「僕、得意なんです」
「UFOキャッチャー?」
「かなり得意です」

マイメロちゃんはエレベーターに乗らずに、スタスタ機械の方へ向かった。



「いきます」
Suicaで料金を支払い、一度スカした。
「あの、大丈夫ですよ」
「もう1回やらしてください」
「お願いします。あ、あっちにピンクがある」

ピンクを見つけるスピード、新宿一。



「カーヴィ!絶対に狩ります」
「なぜそこまでして、でもがんばれ!」

今度は一度で成功した。目を細めてボタンを正確に操作する姿は清潔だった。その後、マイメロちゃんは安堵の表情でエレベーターに付いてきてくれた。

くりくりお目目

「これ、プレゼントです」
「え、私にだったんですか。嬉しいです。これでピンク仲間に」
「ようこそ」

晴れてピンクの仲間になれて喜ばしい。
プリクラのフロアに到着すると、女子高生がゾロゾロといて女の匂いが充満していたが、ピンクな我々は堂々と奥へ進んだ。

率先してタッチ操作をしてくれる

前は400円だったのに、500円になっているプリクラ機。4人で行ったら割り方どうするの。

「どのフィルターにします?」
「え、どれにしよう、やばい。制限時間がないです」

急いで幕を開けて、カメラの前に座る。

ハートポーズをしてね!ガオガオポーズをしてね!おとぼけポーズ!

日常生活でしない、媚に媚びたポージングをしてデートは終わりかけていく。落書きスペースに移って、マイメロちゃんのタッチペンの操作の速さを見た。

「速くないですか。こういうの得意ですか?」
「いえ、はじめて落書きしてます」
先ほどのUFOキャッチャーの時と同じくらい集中していた。この人、機械に強いぞ。

魂のガオガオポーズ

加工もここまでやってくれる時代。マッチングアプリのアイコンにして、待ち合わせ場所で相手を混乱させよう。



「いや〜、今日楽しかったです」
「私も」
「作家さんと一緒に過ごすとか、こんな体験なかなか出来ないって思います」
「いや、作家よりマイメロちゃんの方が圧倒的に希少性ありますよ」
「そうかな。世界に2匹くらいかな」
「ほ〜んと、そういうところも可愛い〜〜、はダメでしたね」
「そう」
「清潔だ」
「嬉しい。ではまた。僕、もっとピンクになります」

やはり薄着で寒かったのか、彼女は肩をすくめて人混みの中へ歩いていった。今後もし街中でピンク色を見たら、キミのことを思い出すかもしれない。いま本棚に置いている貰ったカーヴィーの存在感も、ずっと変わらないだろう。そしてマイメロちゃんのピンクの道が進化しますように。



次回は2丁目のバーで働く女装男子と出会います、おたのしみに。

*今回デートした女装モデルさん
マイメロちゃん

* 作家プロフィール
ご機嫌よう。稲田万里(いなだ・まり)です。
福岡県出身の作家、占い師。東京デザイナー学院卒業後、ブックデザイナー佐藤亜沙美氏に師事。その後、不動産会社、編集プロダクションなどに勤務し、スナックのママも経験する。占い師としての専門は霊視、易。2022年の10月、ひろのぶと株式会社より初の著書『全部を賭けない恋がはじまれば』を上梓。Twitter @chikazukuze