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コラム

【キミの女装の中心線#04】還暦前に女装デビュー、再プロポーズしたキミと

#04

2023、3月。

今回のデート相手は、還暦に近い女装さんだ。

彼女の名前は、たか子さん。

西武新宿駅の近くのカフェで、待ち合わせをした。ちょっと目を離した隙に出来上がっていた歌舞伎町タワーは、もう少しでオープンするという。歌舞伎町の景色はここからどう変わっていくのだろう。着飾ったビルが街の中に置かれると少し寂しくなるのは何故だろう。
このぐちゃぐちゃな街並みがあまり整理されないことを祈る。

先にカフェに入り、今回のお相手を待つ。

今週はホワイトデーもあり、デートに相応しい。

今年に入って毎週のように女装男子に出会い、話している。男らしさとか、女らしさとか、そういうものが曖昧になって、自分の中のグラデーションな性を彼女たちを通して見ている。

私の仕事は占い師なんだけれど、お客さんの悩みを聞いていくうちに「それって私の話でもあるな」と思うことが多々ある。分かりすぎてしまう、こともある。占い師というのはそこに飲まれないように相手を観察をしながら答えていく仕事だ。

女装男子と話していると、向こうが占い師のように初めて会う私に対して知らない角度から話をしてくれる。お互いの共通点もきっと、お互いに分かっているはずだ。


第4回目のデート相手、たか子さんはTwitterもやっていると事前に知ったので、タイムラインを追いかけた。お弁当の画像から自撮りから、投稿内容は平和だ。まめな愛情深い人であることがテキストから見て取れる。実際に会うとどうなのだろう。


「こんばんは。たか子です」

彼女はやわらかな笑顔で私の前に座った。



「こんばんは、今日はよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ。還暦前です。たか子っていいます。今日は〜クリニック行った帰りで」
「クリニック?」
「あ、女性ホルモンを打っているんです」

女装男子の中には身体を女性に変化させる人もいると聞いていたが、彼女はまさにそうだった。

ふくらんだ胸と、還暦に見えない肌艶は後天的に手に入れたものだという。

「お肌、綺麗ですね」
「あはは、ありがとうございます。実はわたし、結婚して子どももいるんです。奥さんに内緒で、女性ホルモンを初めて打った日から1週間後に肌艶がよくなったせいかバレました」
「肌艶でバレるなんてあるんですね。結構驚かれてましたか?」
「驚いてるというか、あんた何かしたでしょ?と詰めてくる感じで。打つ前はこんなツルツルじゃなかったんですよ〜」
「ホルモンで、こんなに変わるんですね」


「あ、今週ホワイトデーですね」
たか子さんはバックから、チョコレートを出して渡してくれた。



「ありがとうございます。長年ホワイトデーなんてもらってなかったので嬉しいです」
「え、ほんとですか。よかったら食べてください」

関係ない話だが、私はお菓子などのお土産をもらうと、分かりやすくテンションが上がってそのあと数日間機嫌が良くなる人間だ。喧嘩した相手が天使に見えてくる時もある。本当にたか子さんありがとう。

手元もバッチリときめている


「奥さんは女装することを受け入れてらっしゃるんですか?」
「もちろん初めは反対されてましたね。でも説得を続けてという感じで。妻子がいる状態で女になっていくのって、夫として父親としてどうなんだろうと長年悩んでいました」
「それで還暦前に女装というか、女性になっていく決意したタイミングって、ありますか?」
「ある女装のイベントに参加して若い子達に触れ合ったんです。昔の考えのままでは人前で自分をさらけだしていくなんて考えられないことでした。」
「若い子達の自信あふれる振る舞いは、たか子さんに大きな影響を与えたんですね」
「もうそれから考えが180度変わってしまったんです」

分厚い歴史


たか子さんは自分の女装の思い出をアルバムにしていて、今日持参してくれた。

還暦前に花開いた様子はページをめくるたびに、加速していく。最初はぎこちなかった迷いのある表情も、仲間を見つけ楽しんでいくうちに変わっていった。

途中、「奥さんに二度目のプロポーズをした」と書かれたページが出てきた。





それはツイートにも書かれていて、たか子さんに話を振ると目が潤んでいた。

「1度目は男としてプロポーズ。2度目のプロポーズはこの私のまま受け入れてもらえるか不安だったんですが、なんとか成功しました」
「いろいろなことが変わっていく中でも奥さんのことをずっと愛していたんですね」
「はい。奥さんのことがずっとずっと好きなんです。あとまだ夢があって、いつか2人で花嫁姿になって写真を撮りたいのです」
「2人で花嫁姿!それは早く実現したいところですね」
「でもまだ急に完全に変わった私のことを受け入れられてる感じではないみたいなので、ゆっくり叶えていきます」



外に出て、一緒にこれから人目に触れていく歌舞伎町タワーを見上げた。



街はゆっくり変わるけれど、人間の生き方は突然変わることがある。
私もそうだ。彼女もそうだ。それに伴い変わっていく人間関係を、これからどうやって楽しんでいくのか。未来に不安を感じていくことは簡単だが、彼女と会って、そんな簡単なことをしないと決めた。できる限り、楽しむ。それだけ抱えて生きていこう。



次回は2丁目のバーで働く女装男子と出会います、おたのしみに。

*今回デートした女装モデルさん
たか子さん
Twitter:@aasitakako

*協力
女装サロンstudio RAAR 新宿
Twitter:@salon_RAAR
営業時間:10:00~20:00(不定休)
TEL:03-6205-6450
〒160-0022 東京都新宿区新宿5-18-12 八重洲ビル6階 60A号室
※ダイコクドラックのある建物の上階です。
都営新宿線、東京メトロ丸ノ内線 「新宿三丁目駅」E1出口から徒歩1分
都営大江戸線、東京メトロ副都心線 「東新宿駅」A1出口から徒歩3分
※事前に必ずご予約してください。

* 作家プロフィール
ご機嫌よう。稲田万里(いなだ・まり)です。
福岡県出身の作家、占い師。東京デザイナー学院卒業後、ブックデザイナー佐藤亜沙美氏に師事。その後、不動産会社、編集プロダクションなどに勤務し、スナックのママも経験する。占い師としての専門は霊視、易。2022年の10月、ひろのぶと株式会社より初の著書『全部を賭けない恋がはじまれば』を上梓。Twitter @chikazukuze